管理栄養士国家試験 解説① 「疫学指標」

この記事では、参考書や解説を読んでもわかりづらい範囲を理解することを目的に、管理栄養士国家試験の中でも苦手な方が多い範囲を解説していきます。

第1回目の今回は「社会環境と健康」から有病率や年齢調整死亡率などの疫学指標について解説していきたいと思います!

参考書にも書かれていない基礎の基礎から解説することを目標としていますのでぜひ普段の勉強に役立ててあげてください!

疫学指標とは

疫学指標は、治療・曝露(有害要因にさらされる)そうでない群との間に疾病や有害な事象が起こる割合や頻度を表したものです。

例えば、たばこ(曝露)を吸っている喫煙者の群とそうでない非喫煙者の群で肺がんのリスクがどのように変わるかなどを調べるときに使う指標です。

管理栄養士国家試験では数少ない計算問題として出される範囲ですので、しっかりと対策しておきましょう!

疫学指標を理解するために必要な用語

疫学指標を理解するためには、問題文によく出てくる用語の意味を理解しておきましょう。

人口〇人対

人口〇人対は、人口千人対や十万人対などで表記されています。

これは、人口1,000人あたり、10万人あたりにして表記するという方法です。

例えば、100人の集団のうち5人が亡くなった場合、死亡率は5/100で0.05(5%)となりますが、これを人口の多い地域などに置き換えるため、それぞれ1,000倍、100,000倍し、50(千人対)、5000(十万人対)にすることで、

人口1,000あたり50人、人口100,000人あたり5000人が死亡すると表記することができわかりやすくなります。

どちらも人数が多い集団で置き換えただけであるため、死亡率は変わらず5%のままです。

管理栄養士国家試験ではこのように人口〇人対で回答することが多いため計算できるようにしておきましょう。

人年法

人年法とは、観察している集団の人数と期間を計算したもので、観察している集団を合計何年分追跡できたかを表す指標です。

基本的には健康な時期を計算として用います。

例えば、5人の集団を3年間病気の発症について観察した場合、内3人は5年間なにも起こらず、1人は1年目に発症。1人は3年目で発症したと仮定すると、

3(人)×5年+1(人)×0(年)+1(人)×2(年)=17人年となります。

これは、観察集団を合計何年分追跡できたかの指標のため、1人を5年追跡するのと、5人を1年追跡するのは同じ意味を持ちます。

また、健康な時期を計算に用いるため、1年目に発症した場合は健康な時期は0となります。

管理栄養士国家試験では基本的に人年を計算させる問題はありませんが、今後出題される可能性もあるため計算できるようにしておきましょう。

有病率

有病率とは、2つの群の観察期間のうち、ある一時点で疾病を持つ人の割合を示す指標です。

観察時点の有病者数/観察時点の集団全体の人数で示されます。

例:13人の集団を3年間観察し、2年経過時(ある一時点)に3人死亡し罹患した者が2人の場合、
2/10=20%となります。

※母数は観察時の人数なので死亡した者は含めません。

罹患率

罹患率は一定期間内に新たにどれだけ疾病が発生したかを示す指標です。

観察期間中の新発生患者数/リスクのある集団全員の観察期間の合計で示されます。

例:10人の集団を5年間観察し、3人が罹患、5年間罹患しなかったものや死亡したもの、治癒したものなどの観察期間の合計が23.5人年だった場合

3/23.5≒0.1276となり、人口千人対(128)や10万人対(12800)で示すことが多いです。

※観察年数は罹患していない時期のことを指すため、5年観察した人でも2年目で罹患すれば観察期間は1年となります。また、治癒後や死亡後は観察年数に含めません。

累積罹患率

累積罹患率は一定期間内に発症した者の割合を示す指標で、いつ発症したかわからない慢性期疾患に用いられます。

観察期間内の新発生患者数/集団の観察開始時の人数で示されます。

例:10人の集団を5年間観察し、3人が罹患、7人が罹患せずそのうち1人が死亡した場合、

3/10=0.3となり、人口千人対では300となります。

※累積罹患率は罹患率と違い人年法を用いません。また、分母が観察開始時の人数なので、途中で何人罹患や死亡したとしても分母は変化しません。

死亡率(粗死亡率)

死亡率は集団を一定期間観察した時の死亡発生の率で、原因は関係ありません。

期間中の死亡数/観察期間の人口で示されます。

例:10人の集団のうち観察期間中に2人死亡した場合、

2/10=0.2となり、人口千人対では200となります。

※分母は観察期間中に対象とした人口のため、死亡数を引く必要はない。

年齢調整死亡率

年齢調整死亡率は、集団内の年齢構成や性別などが異なる集団同士で死亡率を比較する際に用いられます。

粗死亡率は集団を一定期間追跡して死亡発生の率を求めますが、集団の年齢構成が高い(高齢者が多い)場合、様々な要因により粗死亡率は高くなります

例えば、高齢者の多いA地域と少ないB地域の死亡率を比較する際、何かしらの疾患を誘発するリスク(環境汚染など)が大きいB地域の死亡率よりも、高齢者の多いA地域の方が粗死亡率が高く算出されます。

しかし、その数値をそのまま使うとリスクの少ないA地域の方が死亡リスクが高いと判定されてしまうため、年齢構成の違いによるズレを補正し正しい比較をするために年齢調整死亡率が使用されています。

年齢調整死亡率の計算に必要な用語

基準集団

基準集団とは、年齢調整死亡率を計算するために必要な集団で、昭和60年時の日本の年齢構成を用いることが多いです。

年齢調整死亡率は、人口構成の違う2つの観察集団での死亡率を、基準集団である昭和60年時の年齢構成に当てはめることで2つの観察集団の人口構成の違いを是正するために用いられます。

ちなみに、基準集団の年齢構成は覚える必要がありませんので、どういったものかだけ知っておきましょう。

年齢調整死亡率の計算方法

年齢調整死亡率の計算には直接法と間接法があり、

直接法は、観察している集団の年齢階級別死亡率が基準集団(昭和60年時の年齢構成)で起きた場合の死亡率を求める方法で、

で表されます。直接法は観察集団と基準集団の年齢構成が同じと仮定して計算する方法で、人数の多い集団に対して用いられます。

間接法は、基準集団の年齢階級別死亡率が観察集団の人口構成で起きた場合の期待死亡数と実際の観察集団の死亡数との比(SMR)から死亡率を求める方法で、

で表されます。間接法は観察集団と基準集団の死亡率が同じと仮定して計算する方法で、人数の少ない集団に用いられます。

年齢調整死亡率の計算

直接法

第27回管理栄養士国家試験より

上の表より、直接法による年齢調整死亡率を計算しましょう。

まずは、「観察集団(A地域)の年齢階級別死亡率の総和」を出しましょう。

400(0~39歳の死亡数(人))÷2,00,000(0~39歳の人口)×100(%換算)=0.2%
600(40~64の死亡数(人))÷3,00,000(40~64歳の人口)×100(%換算)=0.2%
1500(65歳以上の死亡数(人))÷5,00,000(65歳以上の人口)×100(%換算)=0.3%

このそれぞれに、対応する基準集団の年齢階級別人口をかけると、

0.2×400,000,00=80,000(基準集団の0~39歳代のうち死亡するとされる人数)
0.2×400,000,00=80,000(基準集団の40~64歳代のうち死亡するとされる人数)
0.3×200,000,00=60,000(基準集団の65歳以上のうち死亡するとされる人数)

となり、このすべてを合算して、80,000+80,000+60,000=220,000(直接法の分子)となります。

これを、基準集団の総人口で割ると、

220,000÷100,000,000=0.0022

これを人口10万人対にすると、220人となります。

直接法は計算させる問題が出題されますので計算できるようにしておけると安心です。

ちなみに、間接法は過去に計算問題として出題されていません。今後出題される可能性もありますが、計算が複雑なため対策する必要はありません。

ただし、「間接法とはどういうものか」を問う問題は出題されますので、特徴を押さえておきましょう。

致命率

致命率は罹患した人のうち、その疾患が原因で亡くなった人の割合です。

期間中の死亡数/疾患の患者数で示されます。

例:50人の集団のうち、10人が罹患し、そのうち2人が亡くなった場合、

2/10=0.2となり人口千人対では200となります。

※分母は疾患の患者数のため、元の集団が何人かは関係ありません。

生存率

生存率は罹患した人のうち観察期間中に生き延びる割合を表します。

罹患した人は死亡するか、生存するかのどちらかなので、1―致命率、もしくは
期間中の生存数/疾患の患者数で表されます。

例:上の致命率を用いると、50人の集団のうち、10人が罹患し、そのうち2人が亡くなった場合、

2/10=0.2(致命率)となり、生存率は、1-0.2=0.8となります。

また、致命率が計算できない場合は、50人の集団のうち、10人が罹患し、そのうち2人が亡くなった(8人が生存した)ため、

8/10=0.8となり、人口千人対では800となります。

※致命率と生存率はどちらかがわかればもう一方も計算できるためセットで覚えておきましょう。

最後に

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